みなさん、今日は釜山の話をひとつしようと思います。
海雲台、ご存知ですよね。昼間に行ったことのある方ならわかるはずです。砂浜が果てしなく広がって、周りのホテルの灯りが海の上に瞬いているあの浜辺。でも、それが……夜になると変わるんだそうです。人が全員いなくなると、あの広い砂浜がただ静かに暗くなるんじゃなくて、何かが変わるって。空気が変わるって言うんですよ。うまく説明しにくいんですけど、聞いた話なんですが、昼間あれだけ賑わっていた浜辺が、夜になると急にしんと静まり返るんだそうです。波の音だけが残って。でもその波の音が、ただの波の音に聞こえないって。
数年前からあのあたりで失踪事件がけっこうあったらしいんです。確かなことはわからないんですが、主に夜に一人で浜辺を歩いていて消えるケースだったって。痕跡がなかったというのが不思議なんですよ。砂浜ですから。足跡が残るはずなのに、ある地点でぷつりと途切れるんだそうです。足跡が。波が消すには奥すぎる場所だったという話も聞きました。
その地面の下に古い墓があるという噂があります。浜辺の下、砂の下に。もともとそこには何かがあった土地だったということです。確認された話じゃないんですが、あの辺りに長く住んでいる人たちは、当たり前のことのように話すんだそうです。昔はみんな知っていたって。夜はそこへは行かないって。
それで、三、四年前になるのかな。釜山でフリーランスをしていた若い記者がいて、この噂をちゃんと調べてやろうと、一人で海雲台の夜間取材に出かけたんだそうです。夜中の一時ごろだったとのことで。懐中電灯を一本持って砂浜に入っていったというんです。
最初は何もなかったって。波の音、遠くのホテルの灯り、足の下に砂を踏む感触。でもしばらく歩いていたら、砂がおかしかったって。足がもう少し深く沈む感じ?乾いた砂なのに濡れているみたいに足首まで引き込まれる気がして、懐中電灯で足元を照らしたというんです。その瞬間に匂いがしたって。海水の匂いじゃなくて、何か古いもの。土の匂いとも違う、長く閉じられていた空間から漂うあの匂い。それがいきなりふわっと上がってきたって。
そして、何かが足首を掴んだって。
手で掴んだんじゃないって。ただ何かが下から絡みついたというんです。冷たくて細い、指のようなものが。記者は悲鳴を上げながら後ろに倒れて、懐中電灯を落としたって。砂の上にぽとりと落ちた懐中電灯が、まだ灯りがついているのに、そのまま砂の中へゆっくりと沈んでいったって。点いたままで。灯りが砂の下でぼんやりと薄れていって、消えたって。
記者はその後、連絡が取れなくなったそうです。
一ヶ月ほど経って、そのあたりを歩いていた人が砂浜で懐中電灯を一本見つけたんですが、すっかり錆びついていたって。一ヶ月で。それが何なのか、その人は写真だけ撮ってそのままにしたって。拾い上げたくなかったって。理由はわからないけど、ただ駄目だという気がしたって言うんですよ。
みなさん、海雲台に行くことがあれば、昼間に行ってください。でももし夜に砂浜を歩いていて、足元から匂いが上がってくるような気がしたら、足元を見ないでください。ただ。
見ないでください。