みなさん、今日は釜山のヨンド(영도)の話をちょっとしてみようと思います。
ヨンド(영도)というところ、ご存知の方はご存知かと思いますが……海岸の方へ下りていくと、古びた鉄骨がそのまま放置されている場所があるそうなんです。かつては船を造っていたところだったらしいんですが、数十年前に大きな火事があって、それ以来人がすっかりいなくなったと聞きました。今はただ錆びた構造物と焦げ跡だけが残る廃船場なんですが……その周辺の人たちの間では、ずっと前から何かおかしな噂が流れていたそうで。確かなことじゃないんです。ただ巷に漂う話ですから。
何年前のことかはわからないんですが、ジホ(지호)という大学生がいたそうです。友達と一杯やって、まあ深く考えもせずにその廃船場に入っていったというんです。夜の十一時頃だったとか。
入ったとたん、まず匂いがしたそうです。錆びた鉄の匂いと……何か焦げたような匂い。古い火災の匂いというのは、数十年経っても消えないものなのか、鼻の奥にべったりとへばりつくような匂いがしたというんです。友達たちは懐中電灯をつけてげらげら笑いながら入っていったんですが、ジホ(지호)はなぜかわからないまま足が別の方向へ向いていったそうで。自分でも気づかないうちに、ただ引き寄せられるように。
友達の笑い声がだんだん遠ざかっていって……ジホ(지호)ひとりで奥へ入っていったんですが、そこで足元を見下ろすと、踏んでいる感触がおかしかったそうです。コンクリートの床なのに、踏んだ感じが少しふかふかするというか。何か上に乗っているような。見下ろしても何もないのに、その感触がずっと続いたと言っていました。
そしてさらに奥へ進んだとき、向こうの壁に何かが映っているのを見たそうです。光はないのに、壁に影があるんです。人のような形をした影が、よろよろしながら一歩一歩歩いているんですが……出どころがない。光がないんだから、影ができるはずがないじゃないですか。ジホ(지호)が懐中電灯をそちらに向けると、影がぴたりと止まったそうです。そして消えたと。
ジホ(지호)が振り返って出ようとしたとき。
その瞬間だったそうです。
首の後ろに息を感じたそうです。冷たくて、湿った。人の息に違いないのに、温もりがまったくない。そして耳のすぐ横で、低い声が聞こえたそうです。
「ここに何しに来た」
疑問符のない声だったと言っていました。問いかけているんじゃなく、ただ……確かめているように。
ジホ(지호)が振り返ったとき、誰もいなかったそうです。懐中電灯が照らす範囲の中に、何もなく、足音もなく、匂いだけがそのままだったと。あの焦げた匂いが。
ジホ(지호)は肝を潰して友達のところへ駆けていったんですが、友達がいたはずの場所に誰もいなかったというんです。みんな先に出たんだと思ったし、実際そうだったんですが……それだけの話なんですけど。
家に帰ってスマホを見ていたとき、ジホ(지호)がギャラリーを開いたそうです。自分で撮った記憶のない写真が四枚あったというんですが。廃船場の奥で、友達が笑っている写真だったそうです。ただそれが……友達の顔には違いないんですが、アングルがおかしかったと言っていました。正面なのに目がどこか別のところを見ていて、口は笑っているのに目の下が長すぎたと。何かバランスがおかしい。
ジホ(지호)がその写真を消したのかどうかは、わかりません。
ただ、聞いた話ですから。
でも私はその話を聞きながら、ひとつのことがずっと引っかかっていたんです。あの声はなぜ「ここに何しに来た」だったんだろうって。怒っているわけでもなく、脅かそうとしているわけでもなさそうで。ただ本当に不思議に思っているように。数十年間誰も来なかったのに、誰かが来たから。嬉しいのか、それとも別の何かなのか。
そっちの方が怖い気がするんです。正直なところ。