皆さん、今日お話しするのは、テグ(대구)の郊外にある小さな村のことです。
私が直接確かめたわけではないんですが。あちらの村の人から聞いた話で……聞いていて、私も少し落ち着かない気持ちになりました。
その村の片隅に、ケヤキの木が一本あるそうです。樹齢がどれほどなのかはわからないけれど、村の人たちの話では、自分の祖父が子どもの頃にも、あの木はもう老いていたと言われるほどだと。もともとは村を守る神木として崇められていて、祭りの季節には祭祀を行い、願いごとを祈ったりもしていたようです。ところが……ずっと昔に、ひどい干ばつが続き、疫病まで広まった年があったそうで。村人たちがどれほど追い詰められていたか、その木の下に供物を捧げても、何一つ好転しなかったんです。それからだといいます。村の人たちが木を信じなくなったのが。いや、信じなくなったというより……恐れるようになったのが。
風ひとつない日でも、あの木の枝が独りでに揺れる。夜に木の近くを通ると、誰かがすすり泣く声が聞こえる。そんな噂が広まったそうです。その噂を聞いた若い男が、怖いもの知らずにも、その音の正体を突き止めてやろうと、夜に一人で出ていったといいます。その夜を境に、男は戻らなかった。木の下で靴が一足見つかったのですが……片方だけ。片方しかなかったそうです。
そうして歳月が流れ、人々もだんだんとその話を口にしなくなり、ただの古い言い伝えとして扱うようになっていったようです。
ところが、つい最近のことです。はっきりとはわからないけれど、三、四年ほど前の話だと言っていました。ケヤキの木の近くにマンションが建ち、その木がバルコニーから見下ろせる部屋ができたそうです。そこに住んでいた中年の男性が、ある夜、眠れなくてバルコニーに出て、ふと木を見下ろしたとき。
木の枝の一本に、何かがぶら下がっていたというんです。
人の形ではないけれど、かといって獣でもない。ただ暗い塊のようなものが枝に引っかかっていて、それがゆっくりと……こちらへ向かって頭を持ち上げるように見えたと。男が目をこすってもう一度見たとき、それは上を見上げていたといいます。自分が立っているバルコニーを。その瞬間、足元からじわりと冷たい気配が這い上がってきたそうです。真夏の夜なのに、足の裏が氷の上に立っているように冷え切っていたと。その場から動けなかったといいます。足が固まってしまって。
翌朝、その男性がいなくなっていました。家族が目を覚ますと、バルコニーの扉が開いたままで、男の姿はなく。靴は玄関にそのままあったのに。
警察が木の周辺を隅々まで調べましたが、何も見つからなかったそうです。土の上に足跡一つなかったと。
それ以来、そのマンションのバルコニー側の部屋はどこもカーテンを閉めて暮らしているといいます。昼間でも。ケヤキの木の方は、もう一切見ないと。
でもね、皆さん。
私にこの話を伝えてくれた人が言うには、その男性の見つかった靴が、片方だったそうです。
あの遠い昔の若者と同じように。まったく同じに、片方だけ。