みなさん、今日は水原で聞いた話をひとつしましょう。
確かなことは言えません。直接見た人から聞いたわけじゃなくて、その人の知り合いから聞いた話だそうで。つまり、また聞きなんですけど……それでも、ちょっと聞いてみてください。
水原華城の長安門、ご存知ですよね。北側の正門。昼間に行けば観光客もたくさんいて、写真を撮ったり、まあそういう場所なんですが。ただ、夜中の二時、三時を過ぎてあのあたりを通ると、何かが違うという話があるんです。
二、三年前の話だそうです。水原に住む男性で、名前はわからないんですけど、三十代の会社員だったそうです。残業を終えてバスを逃してしまい、歩いて家に帰る途中だったと。夜中の二時半ごろだったと思うと。長安門のそばの城壁沿いの道を通ることになって。
最初はただ静かだったそうです。その時間に人がいるわけもなく、街灯の光が城壁の石の上に長く伸びているだけで。ところが歩いていると……足音が聞こえてきたんです。
自分の足音じゃない。自分の靴はスニーカーで、アスファルトを歩く音のはずなのに。聞こえてくるのは石の上を踏む重い音で、しかも一人じゃなく、何人かが足並みを揃えて歩くような音だったと。タッ、タッ、タッ、タッ。リズムがあったそうです。兵士たちが号令に合わせて行進するみたいに。
その方は足を止めたそうです。音も止まって。
また歩き出すと音もついてきて、止まるとまた止まる。それを三度繰り返したと言います。周りをいくら見回しても、何も見えないのに。
逃げるように歩いてその場を離れたそうです。でもね、みなさん。
その方が家にほぼ着いたころ、ふと後ろを振り返ったら……長安門の門楼の上に、何かが立っていたそうです。遠くから見たから小さかったでしょう。でも確かに人の形をしていて、衣の裾のようなものが風に揺れていたと。その夜明け前に風が吹いていたのかって?その方の話では、あの夜は風がまったくなかったそうです。
鳥肌が立って、後ろも見ずに走ったと言っていたそうです。
後で知り合いにその話をしたら、その知り合いも似たような話を聞いたことがあると言ったそうで。長安門の近くで夜明けに銅鑼の音を聞いたという人もいるし、城壁の上から何かが見下ろしているのを見たという人もいると。
華城が建てられたのは朝鮮の正祖の時代でしょう。あの城を守っていた兵士たちは何百人もいたはずで……その人たちが、みんなどこへ行ったというんでしょう。
まあ、わからないですよね。
ただ、その方はそれ以来、残業したら必ずタクシーに乗るそうです。どんなに近くても。長安門の前は絶対に歩いて通らないと言っているそうで。
特に、夜明け前は。