仁川の古い港の近く、日が暮れると誰もが足を踏み入れることを恐れる路地がある。古びた建物に四方を囲まれたその場所は、昼間は喧騒に満ちた街の営みの中に静かに潜んでいる。しかし夜が訪れると、その路地はまるで別の世界へと続く扉のように変貌する。
深い静寂の中で、人々はときおり奇妙な音を耳にすると言う。風もないのに木の枝が揺れるような、そんな音だと。だがそれは風ではなく、数百年前にこの地で生まれたという伝説の生き物のささやきなのだ。その生き物は「影の怪物」と呼ばれ、形を持たず、ただ影のように忍び込んでくるとされている。
ある老婆が、この怪物にまつわる話を語ってくれた。若い頃、友人たちと連れ立って好奇心から路地を訪れた彼女は、そこで奇妙な体験をしたという。友人の一人が突然姿を消し、それきり二度と戻ってこなかったのだ。残された者たちはその後、あの夜のことは決して口にしないと誓い合ったが、それでも彼女は言った——あの夜、自分たちが目にしたのは、影の怪物の真の姿だったと。
この怪物は闇の中にのみ姿を現し、道に迷い彷徨う魂を喰らうという。その姿を捉えることはできないが、その存在は圧倒的な恐怖として感じ取られる。怪物に捕らわれた者は二度と戻らず、彼らの悲鳴は風に乗って路地に漂い、次なる迷い人を誘い込む。
ほど近い過去にも、また一つ失踪事件が起きた。若い男性が友人たちとともにその路地へ入り、そのまま帰らなかったのだ。警察は捜査を続けているが、路地の近くに住む者たちは口を閉ざしたままだ。彼らもまた影の怪物の存在を知っており、沈黙を守ることと引き換えに、自らの命を繋ぎとめているのである。
影の怪物の伝説は今なお仁川の暗い夜を支配し、その路地は今日も誰一人として踏み込まない、禁じられた土地として在り続けている。