みなさん、今日は慶州のほうから流れてきた話をひとつ聞かせましょう。
確かなことは言えません。あくまでも、あのあたりの村でずっと昔から囁かれていた噂だというので……ただそういう話がある、そのくらいのつもりで聞いてください。
慶州の外れ、ある小さな村に、金という姓を持つ家があったといいます。新羅の王族の血を引くと自ら称していたそうで、実際その家の門柱の高さは村のどの家よりも高かったといいます。瓦屋根が幾重にも連なり、塀の向こうに屋根の端が見えないほど広かったとか。土地がどこまでこの家のものなのか、村人たちにも分からなかったという話もあります。
ところがですね。
その家の富を不審に思う目が、村にはずいぶんあったといいます。凶作になれば他の家はみな没落するのに、金家だけは年ごとに蔵がさらに膨らんでいったというのです。日照りも、戦も、疫病も——何が来てもこの家だけは無傷だったと。それがかえって薄気味悪かったというのですね。
村の老人たちの間ではこんな言葉が囁かれていたといいます。あの家が富を得たのは天の加護ではなく……何かと取引をしたからだ、と。鬼神と呼ぶ者もいたし、ただ「あれ」とだけ言う者もいたとか。正確に何なのかは誰も口にしなかったそうです。口にしてはならないと言われていたとも。
聞いた話なのですが、あの家の塀の外を夜遅くに通りかかって、おかしなものを見たという人がいたといいます。ずいぶん昔のことで、その人ももういないので確かめようもないのですが。
ある初冬の夜のことだったといいます。その人が用事があって金家の塀沿いの道をひとりで歩いていたところ……塀の内側から音が聞こえてきたというのです。最初はただの風の音だろうと思ったのですが、そうではなかったと。
食べる音だったといいます。
しかも一人ではなく、大勢の。口を閉じずにもぐもぐ、くちゃくちゃと咀嚼する音が塀の向こうから漏れてきたというのです。その時刻は夜半を過ぎていたといいますが、おかしいとは思いながらも足を止めまいとしたそうです。ところが。
塀の角を曲がろうとした瞬間、その音がぴたりと止んだといいます。
そして塀の内側から何かが歩み寄ってくる音がしたといいます。足音なのですが、おかしかったというのです。歩数が多すぎたと。一人にしては足音が六つ、七つ……数えていると、どうしても数が合わなかったと。
その人はただ走ったといいます。後ろを振り返らなかったと。ところが家に帰って着物を脱ごうとしたとき、首の後ろがおかしかったといいます。触ってみると、指の跡のように皮膚が押し込まれていたとか。本人は誰にも触れられた覚えはないと言っていたそうですが。
その後、金家にどんなことが起きたのかは……村の人たちが詳しく話そうとしないといいます。家の者たちが次々とおかしくなっていったという話があり、ある人は、富を持ち去ったものが結局自分の取り分を受け取りに来ただけだ、とも言ったとか。
今あの屋敷跡がどうなっているのか、私にも分かりません。
ただ、あの村の古老の中に、こんなことを言う方がいるといいます。あの家の塀があった場所の近くは、今でも真冬に行くと匂いがするというのです。飯の匂いが。
温かい飯の匂いがするといいます。真夜中に。