むかしのことやけどな、チョンジュ(전주)のハノクマウル(한옥마을)の奥のほうに、チョンドン(전동)聖堂があるやろ。そう、あの赤煉瓦の美しい聖堂や。昼間に見たら本当に綺麗でな、写真を撮りに来る人が後を絶たんのよ。せやけどな、おばあちゃんが聞いた話があってな、あの土地がもともとどんな土地やったか知ったら、誰もあないに明るい顔して立っとれへんと思うわ。
それでな、これはあの界隈に長う住んどった人から又聞きで聞いた話やから、確かなことは言えへんけど、朝鮮末期にあの土地は処刑場やったって言うんよ。天主教の信者たち、罪といえば信仰ひとつだけやった人たちが、あの場所で首を刎ねられたって言われとる。若い者もおったし、子どもを持つ母親もおったし、ずいぶん多くの人がそこで死んでいったんやて。その血が地面に染み込んで、今もあの場所の土は普通やないって噂があったそうや。
せやけど聖堂を建てるときにな、工事をしとったら、人夫のひとりが基礎を掘っとる最中に妙なことがあったって言うんよ。真夏やのに、地面から冷たい風が上がってきたって言うんや。真昼間の炎天下でスコップを使うとったら、足元からいきなりぞっとするような気が上がってきて、その人があんまり驚いてスコップを投げ出して、後も見ずに逃げ出したって言うんよ。それだけやなくて、夜に工事現場を見張っとった人たちが、誰もおらんはずの方向からずっと土を掘る音が聞こえてきたって言うんや。スコップの音やなくて、手で引っ掻くような音やったって言うんよ。ざりざり、ざりざりって。確かめに行ったら何もない。
それでな、これはほんまに最近の話やけど、何年か前に写真同好会の人たちが夜景を撮りに聖堂の前に集まったって言うやろ。みんな三脚を立ててカメラを覗いとったら、そのなかのひとりの若い女の人が何か妙なものを感じたって言うんよ。聖堂の正面の階段のほうから花の匂いがしたって言うんや。菊みたいな匂いやけど、菊にしては濃すぎて甘ったるくて、むしろ気持ち悪くなるくらいやったって言うんよ。その人が顔を上げて階段のほうを見たらな。
階段に人が座っとったって言うんやて。せやけど何か妙やったって言うんよ。膝をついて、両手を前に合わせて、頭をうなだれたまま。祈っとる格好やったって言うんや。そのとき夜の十一時を過ぎとったって言うんやけど、ひとりであないしとるんかと思うて声でもかけようと一歩近づいたって言うんや。せやけどその瞬間、隣におった人がその人の腕を掴んだって言うんよ。静かに指差しながら、見て、見てって言うたって言うんや。
その人の足が、階段に触れてへんかったって言うんよ。
膝から下が、階段の上にほんの少し浮いとったって言うんや。ちょうど指一本入るくらい。その人は光のせいで目の錯覚かと思うて目を擦ったって言うんやけど、擦って見ても同じやったって言うんよ。それで、その若い女の人が悲鳴を上げたって言うんやけど、その瞬間にその影がすうっと消えたって言うんや。せやけど消えるときにな、花の匂いがぐっと一層濃くなったって言うんよ。息が詰まるくらい。
今でもその人は菊の匂いを嗅ぐと、あの夜のことを思い出すって言うんやて。
あの土地に染み込んだものが、どれほど多いやろか。どれほど多くの人が、あそこで最後の祈りを捧げたやろか。やからな、夜に聖堂の前を通りかかって、甘ったるい花の匂いがふっと漂ってきたら、知らんふりしてそのまま歩いていくのが一番やって言うんよ。後ろは振り返らんと。