さて、みなさん。
今日は鍾路のど真ん中の話をひとつ。人づてに聞いた話で……確かなことは言えません。ただ、あの日そこにいたという人から、ぽつりと漏れてきた話です。
数年前のことだそうです。鍾路にあるル・メイエールビル、ご存知の方はご存知でしょう。かなり高い建物です。オフィスがびっしり入って、何でもない日には何百人もが行き交う、そういう場所。
その日も、ごく普通の午後だったそうです。
昼食を終えて戻ってきた人たちが席に着いて、パソコンを立ち上げて、書類をめくって、電話を取っていた、そんな時間。それがふと、何かおかしいと感じ始めたというんです。最初はほんのかすかに——机の上に置いてあった水のコップが、ちょっとだけ揺れたと。ゆらり、と。でも風もなく、何も触れていないのに。
その次の瞬間からだそうです。ビルが揺れ始めたのは。
「揺れた」という言葉では、少し足りない気がします。聞いた人の話では、足の裏の下から這い上がってくる振動が、ふくらはぎを伝って腰まで届いたと。硬いコンクリートの床が、生きているもののように動く感覚。上の階にいた人たちは、壁がごくゆっくりと、しかし確かに傾いて、また戻ってくるのを感じたそうです。窓の外に見える鍾路の通りが、少しずつ流れて、また戻ってきたと。
その瞬間、オフィスの中がどうだったか、わかりますか。
何の音もしなかったそうです。最初は。
悲鳴もなく、誰も声が出なかったと。ただみんな固まって、自分の机の角をつかんで、互いに目だけを合わせていたと。その目を見たという人が言うんです。恐怖というより、理解できないものを見たときに浮かぶ表情だったと。信じられなくて、むしろ静まり返ってしまう、あの表情。
それから誰かが先に立ち上がって扉のほうへ走り出すと、そこでようやく、みんな一斉にあふれ出したそうです。千人を超える人たちが、階段へとなだれ込んだと。エレベーターには誰も乗らなかったと言います。誰かに言われたわけでもなく。ただ本能的に。
ビルは数時間閉鎖されて、後から発表が出たそうです。屋上の冷却ファンの羽根が一枚折れて、その振動がビル全体に広がったと。機械の故障だと。
でもね、みなさん。
あの日そこにいたという人が言うんです。階段を降りながら、ふと立ち止まったと。振動が壁を伝って上がってくるのが、手のひらに感じられたと。コンクリートの壁に手をついたら、それがまるで呼吸をするように、ごく規則正しく震えていたと。
規則正しく。
羽根が一枚折れたファンなら、不規則に揺れるはずじゃないかと。なのにその振動は、あまりにも一定だったと言うんです。まるで何かが——とても大きく、とても静かな何かが——その中で、息を整えているかのように。
その人はあの日以来、そのビルの近くにはあまり行かないそうです。
理由はうまく言えないと言っていました。ただ、あの手のひらに感じた振動が、ふとしたときに思い出されると、それだけ。