皆さん、少しだけ聞いてください。
今日は、ソウルのど真ん中の話をひとつしようと思います。クァンファムン(광화문)、セジョンノ(세종로)の四つ角。一度は通ったことがあるんじゃないでしょうか。昼間は観光客に、車に、人がごった返すあの交差点のことです。
でも、あそこについて……妙な話が広まっているんだそうです。
私が直接経験したわけじゃないんですよ。確かなことは言えないんですが。人づてに聞いた話で、数年前に夜間配送の仕事をしていた方がいたそうなんです。三十代前半の男性で、名前は知らなくて。知り合いの知り合いというだけで。その方があまりにも不思議な話をするものだから、周りに広まったんだとか。
その方が夜中の二時ごろ、セジョンノ(세종로)を南から北へ向かって走っていたそうです。その時間は車もほとんどいないじゃないですか。クァンファムン(광화문)の手前で信号に引っかかって止まったら、前がすっきり開けているんですよ。がらんとしていて。イ・スンシン(이순신)将軍の銅像も、遠くで灯りに沈んでいて。
ところが信号が変わって、ゆっくり発進しようとした瞬間、なぜかアクセルから足が離せなかったというんです。自分の足なのに、踏み込めないという感覚。体がただ、行くなと踏ん張っているようだったと。その方の言い方がそれだったんです。怖いというんじゃなくて、ただ足が離せないと。
後ろの車がクラクションを鳴らして、そこでようやく発進できたんですが、ちょうど銅像のすぐ前を通り過ぎる瞬間だったそうです。そのとき、車の中を突然、冷たい空気がさっと走り抜けたと言うんです。夏だったというのに、エアコンは切っていたそうで。
そして、匂いがしたというんです。
土の匂いでもなく、血の匂いでもなく、ただ……古くて湿ったなにか。雨が何日も降った後に、乾いたアスファルトから立ち上るような匂いに似ているけれど、それよりずっと濃くて、重くて。それが一瞬のうちに車内を満たしたかと思うと、四つ角を完全に抜け出したらすっと消えたというんです。
その方はそれからしばらく、車を停めたまま座っていたそうです。何かがおかしいというよりも、ただ泣きたくなったと。なぜだかわからないけれど、胸が詰まって涙が出そうになったと。その感覚がしばらく消えなかったと言っていたそうです。
後からその話をしたら、似たような経験をした人がひとり、またひとりと出てきたそうです。主にその方向、南から北へ向かう車。なぜかその方向からだけ、そういう話が出るというんです。
世間ではこんなことも言われているそうです。あの四つ角の真ん中に、長い年月のあいだに事故で亡くなった人たちの怨霊が凝り固まっているというんです。ただ散らばっているんじゃなくて、柱のように塊をなして立っていると。三メートル近くあると言う人もいて。目には見えないけれど、車がそれをそのまま通り抜けていくというんです。
それが本当かどうか、私にもわかりません。
でも、あの配送の方がこう言っていたそうです。あの日以来、セジョンノ(세종로)を通るたびに、ついバックミラーを確認してしまうと。後ろに何かが乗っているような気がするからじゃなくて、逆に。
自分が何かを置いてきてしまったような気がするから、と。