AI カイダンボット 日本語 原作

数えの女

AI AI 生成の創作フィクションです(音声・画像も AI 生成)。実在の出来事・人物・団体・場所とは無関係です。

数えの女

十月の末、京都に移り住んで三週間が経った頃、私は初めて彼女に会った。

祇園の裏通りというのは、観光案内には載らない場所だ。花見小路から一本、あるいは二本奥に入ると、急に空気が変わる。石畳の上に落ちる街灯の光が黄みがかっていて、昼間でも日が差しにくい。格子戸の並ぶ町家は黒ずんだ木の色をしており、どの建物も等しく年老いて見える。観光客の賑わいが嘘のように消え、自分の足音だけが石畳に響く。私がその路地を歩くようになったのは、単純に近道だったからだ。下宿先から鴨川べりまで出るとき、あの裏通りを抜けるのが一番早かった。

私は写真を撮る仕事をしていた。といっても大きな仕事ではない。雑誌の片隅に載るような建築物の写真、あるいは旅行ガイドに添える風景写真、そういった地味な仕事だ。京都に来たのも、古い町並みを撮るためだった。三ヶ月の予定で下宿を借り、毎日カメラを持って歩き回った。祇園の裏通りは被写体として申し分なかった。光の入り方、石畳の質感、格子の影が落ちる角度、どれも計算されたように美しかった。だから私は毎日その路地を歩いた。

彼女を最初に見たのは、夕暮れ時だった。

路地の突き当たりに、小さな地蔵堂がある。高さ一メートルほどの石の祠で、中に小さな地蔵が祀られていた。いつも線香の煙が細く上がっており、誰かが定期的に花を供えていた。私はその祠を何度も撮影していたが、その日初めて、祠の前に人影があることに気づいた。

女だった。

着物姿で、後ろ向きに立っていた。薄墨色の着物に、帯は黒に近い紺色。髪を高く結い上げて、うなじが白く、夕暮れの光の中でぼんやりと浮かび上がるようだった。舞妓か芸妓かと最初は思ったが、雰囲気が違った。舞妓は白粉で顔を塗り、華やかな花かんざしを挿す。その女は装飾を一切つけていなかった。ただ静かに、祠の前に立って、何かを見つめていた。

私はカメラを構えた。撮影許可を取るべきだったかもしれないが、あまりにも絵になる光景で、体が先に動いていた。シャッターを三回切ったとき、女が振り返った。

顔を見た瞬間、私は息を吸うのを忘れた。

美しい顔だった。しかし何かがおかしかった。目が、笑っていなかった。いや、それだけではない。目の焦点が、私に合っていないような気がした。私を見ているようで、私の少し後ろを見ているような、あるいは私を透かして遠くの何かを見ているような、そういう視線だった。口元には微かな笑みが浮かんでいたが、その笑みも奇妙だった。笑みというよりは、笑みの形をした何か、とでも言うべき表情だった。

「撮られましたか」と女は言った。

声は低く、落ち着いていた。怒っている様子はなかった。ただ確認しているだけのような口調だった。

「すみません、許可もなく」と私は謝った。「消します」

「いいえ」と女は言った。「消さなくていい。でも」

そこで女は少しだけ首を傾けた。

「写っていますか」

奇妙な問いだと思った。自分が写っているかどうかを、撮った人間に尋ねる。私はカメラの液晶画面を確認した。三枚の写真の中に、確かに女の後ろ姿が写っていた。振り返りかけた瞬間の写真には、横顔の一部が写っていた。

「写っています」と私は言った。

女はそうですか、とだけ言い、再び祠の方に向き直った。もう私への興味を失ったように見えた。私は何か話しかけようとして、やめた。その場の空気が、それ以上の会話を許さないような重さを持っていた。私は軽く頭を下げて、その場を後にした。

しかし歩きながら、ずっと首の後ろが寒かった。十月の夕暮れだから気温が下がったのだと、そう思おうとした。

翌日も、私はその路地を歩いた。

地蔵堂の前に女はいなかった。前日のことは偶然の出会いだったのだろうと思い、私は通り過ぎようとした。そのとき、路地の奥から、かすかな音が聞こえた。下駄の音ではない。足音がしないのに、何かが近づいてくる気配だった。振り返ると、誰もいなかった。石畳が続き、格子戸が続き、遠くに街灯の黄色い光が見えるだけだった。

私はその場に数秒立ち止まり、それから足を速めた。

三日後、女に再び会った。

今度は昼間だった。私が路地を歩いていると、格子戸の前に女が立っていた。前回と同じ薄墨色の着物。同じ黒に近い帯。同じ結い上げた髪。まるで三日間、ずっとそこに立っていたかのような、そういう静止の仕方だった。

数えの女

「また来た」と女は言った。挨拶でも非難でもなく、ただの観察のような言い方だった。

「この辺りをよく歩くんです」と私は言った。「写真を撮っているので」

「そうですか」

「昨日も来ました」

「知っています」

私は少し驚いた。昨日、女の姿は見えなかった。どこかで私を見ていたのだろうか。

「この辺りに住んでいるんですか」と私は聞いた。

女はゆっくりと首を振った。「住んでいるというより、ここにいる、という感じです」

意味がよくわからなかったが、深く聞く気にはなれなかった。その代わり、私は別のことを聞いた。

「昨日、地蔵堂の前で、何をしていたんですか」

女は少し間を置いてから答えた。「数えていました」

「数える?」

「通る人を」

それだけ言って、女は格子戸の奥に消えた。戸が開いた音も、閉まった音も、聞こえなかった。ただ気づいたら、女はいなくなっていた。

私は下宿に戻り、撮影した写真を整理した。三日分の写真をパソコンに取り込み、一枚一枚確認していった。祇園の路地の写真、石畳の写真、格子戸の写真、地蔵堂の写真。最初に女を撮った三枚の写真まで来て、私は手を止めた。

女の後ろ姿が写っている写真。振り返りかけた横顔の写真。問題はなかった。しかし三枚目、女が完全に振り返った瞬間を撮った写真を見て、私は画面に顔を近づけた。

女の顔が写っていなかった。

後ろ向きの姿勢のまま、首から上だけが、まるで消しゴムで消したように、ぼやけていた。いや、ぼやけているのではない。そこだけ、光が変に回り込んでいるような、空気が歪んでいるような、そういう見え方だった。カメラの不具合か、光の加減か、そう思おうとした。しかし横顔が写っている二枚目の写真には、顔のそれ以外の部分は鮮明に写っていた。

私はその写真をしばらく見つめ、それから閉じた。

その夜、夢を見た。

祇園の裏通りを歩いている夢だった。夢の中では夜で、街灯がいくつか消えていた。石畳が濡れていて、足音が水を踏む音に変わっていた。地蔵堂の前に来ると、女が立っていた。後ろ向きに。いつものように。私は声をかけようとしたが、声が出なかった。女はゆっくりと振り返り始め、私はその顔を見ようとした。しかし顔が見えなかった。顔があるはずの場所に、ただ暗い空白があった。

目が覚めると、午前三時だった。部屋の中が異様に静かで、自分の呼吸の音だけが聞こえた。窓の外、鴨川の方から、かすかに水の音がした。私はしばらく天井を見つめ、それから目を閉じた。眠れなかった。

翌週、私は下宿の大家である老婆に、祇園の裏通りについて聞いてみた。老婆は七十代で、京都生まれの京都育ちだった。彼女に聞けば何か知っているかもしれないと思ったのだ。

「裏通りの地蔵堂のそばに、着物姿の女性をよく見かけるんですが」と私は言った。「芸妓さんではないようなんですけど」

老婆は茶を飲む手を止めた。

「薄墨の着物ですか」と老婆は言った。

「ええ」

老婆はしばらく黙っていた。そして静かな声で言った。

「あの辺りに、昔、置屋がありましてな」

数えの女

置屋とは、芸妓や舞妓を抱える組織のことだ。祇園には今でも複数あるが、老婆が話しているのは過去の置屋のことらしかった。

「明治の頃の話ですわ。そこに、たいそう美しい芸妓がいた。名前は、確か、つゆ、といいましたかな。お客に大層人気があって、毎晩座敷に呼ばれておりましたそうで。ところがある秋、急に姿が見えなくなった。置屋の者が探しても見つからない。どこへ行ったのかも、なぜいなくなったのかも、誰にもわからなかった」

「それで」と私は促した。

「それからしばらくして、あの裏通りで、女の姿を見たという話が出始めた。薄墨の着物の、顔の見えない女、という話が。その女を見た者は、その後、何かよくないことが起きる、という話でしてな」

老婆はそこで言葉を切った。私を試すように、あるいは私を心配するように、じっと見ていた。

「何かよくないこと、というのは」

「人によります。病気になる者もある。仕事を失う者もある。でも一番多いのは」

老婆はゆっくりと言った。

「数が合わなくなる、という話ですわ」

「数が合わない?」

「自分の周りの人間の数が、合わなくなる。家族が一人増えているように感じたり、逆に一人足りないように感じたり。でも実際には変わっていない。ただその感覚だけが残る。そういう話です」

老婆はそれ以上話さなかった。私も、それ以上聞けなかった。

その日の夕方、私は再び裏通りを歩いた。行かなければよかったのかもしれない。しかし足が向いた。理由はうまく説明できない。ただ確かめたかった。何を確かめたいのかも、明確ではなかった。

地蔵堂の前に、女がいた。

今度は正面を向いていた。私の方を向いて、立っていた。薄墨の着物、黒に近い帯、高く結い上げた髪。顔には、あの笑みの形をした何かが浮かんでいた。

「また来た」と女は言った。

「また来ました」と私は言った。

「もう来なくていい」と女は言った。今まで聞いたことのない言い方だった。来るなという命令でも、来なくていいという気遣いでもない。ただの事実を告げるような、あるいは予言のような言い方だった。

「どういう意味ですか」と私は聞いた。

女は答えなかった。代わりに、ゆっくりと祠の方に向き直った。そして線香の煙の中に、溶けるように、消えた。

私はその場に立ち尽くした。女が消えた場所には、細く白い線香の煙だけが、秋の冷たい空気の中を真っ直ぐに上っていた。地面には何も残っていなかった。足跡もなかった。もともと石畳だから足跡はつかないが、それでも私は石畳を見つめた。

下宿に帰り、荷物をまとめた。三ヶ月の予定だったが、それより早く引き上げることにした。理由を老婆に聞かれたが、うまく答えられなかった。体の調子がよくない、とだけ言った。老婆は何も言わなかった。ただ見送るとき、「気をつけていきなさい」と言った。その言葉がどういう意味を持つのか、私にはわからなかった。

京都を離れてから一ヶ月が経った。

数えの女

仕事は普通にしている。体の調子も特に悪くない。あの路地で起きたことを、誰かに話したことはない。話しても信じてもらえないだろうし、そもそも何が起きたのかを、私自身うまく説明できない。

ただ一つだけ、おかしなことがある。

私には姉が一人いる。東京に住んでいて、年に数回会う程度の仲だ。京都から帰ってきた翌週、姉から電話があった。久しぶりに会おうという話になり、先日、東京の駅近くの喫茶店で昼食を共にした。話は弾んだ。他愛のない近況報告をして、二時間ほどで別れた。

帰り道、電車の中で、私はふと思った。

姉と二人で喫茶店に入り、二人で話をして、二人で別れた。それは確かだ。しかし帰り際、テーブルにあったコーヒーカップが三つだったような気がした。注文した記憶は二人分しかない。給仕の者が間違えて持ってきたのかもしれない。そう思おうとした。

しかし今も、そのコーヒーカップの記憶が消えない。

三つ目のカップには、口紅の跡があった。薄墨色の、口紅の跡が。

私は姉に確認の電話をしようとして、やめた。電話をして、もし姉が「あのとき喫茶店には三人いたでしょう」と答えたら。あるいはもし、「喫茶店には二人しかいなかったけど、帰り際に誰かが一緒にいたような気がする」と答えたら。

どちらの答えも、私には耐えられない気がした。

だから私は電話をかけなかった。かけるつもりもない。

ただ毎晩、眠りにつく前に、部屋の中を確認する。電気をつけて、隅々まで見回す。何もない。いつも何もない。

それでも私は確認せずにいられない。女の声が、耳の奥に残っているからだ。

「通る人を、数えていました」

あの声が、夜になると戻ってくる。そして私はその言葉の意味を、ゆっくりと考える。地蔵堂の前で、路地を通る人間を数えていた女。その女が数えていたのは、生きている人間の数だったのか。あるいは、もっと別の何かの数だったのか。

そしてもし、数えることに意味があるとしたら。

数える理由があるとしたら。

数えた後に、何かをするとしたら。

答えは出ない。出したくない。

ただ、今夜も私は部屋の中を確認する。窓を閉め、鍵をかけ、隅々まで見回す。電気をつけたまま眠ろうとする。

そして眠りにつく寸前、いつも同じ感覚がある。

部屋に、誰かがいる、という感覚だ。

振り返れば、何もない。壁がある。家具がある。それだけだ。

それだけのはずだ。

しかし今夜、私が振り返る前の一瞬、何かの気配がした。

着物の、衣擦れのような音がした。

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